「ハッカーと画家」は、エッセイスト、ベンチャーキャピタリスト、そして自身もハッカーとして有名なポール・グレアムが 2001年から2004年にかけて Webサイトに掲載していたエッセイをまとめた本です。
この本は日本では 2005年に発刊されているのですが、ポール・グレアムはその年に「Y Combinator」というスタートアップ企業向けのベンチャーキャピタルを立ち上げています。これまでに、Dropbox、Airbnb、Heroku、Docker、Stripe などの超有名企業を含む 800以上の企業に出資するなど、最近はそちらの方面で名声をあげています。
ところで今回は、話題の本ではなくいわゆる「古典」を読もうと思って読んでみたのですが(栄枯盛衰の速い IT業界では 2005年の本と言うともはや古典の部類に入るのでは?と思います)、個々の技術的なキーワードは確かに歴史を感じさせますが *1、このエッセイ集全体を通して、現在にも通じる強烈なメッセージを感じました。
それは「ハッカーが成功するにはどうすればいいか?」というメッセージです。全世界のハッカーに希望と勇気を与えている、そんな感じがしました。そしてそれが現在にも通じる力強さを感じるのは、著者自身がハッカーであり、そして実際に彼が成功しているからではないでしょうか。
ちなみにタイトルの「ハッカーと画家」は、あるエッセイ(第2章)のタイトルなのですが、著者自身の経験 *2 から、「良いものを創る」「デザインのセンスが必要」「先例(良いコードや偉大な画家の作品)から学ぶ」「詳細化しながら創る」という意味においてハッカーと画家は同じだと言っています。しかしながらこの「ハッカーと画家」というのが本全体を通して一貫したメッセージになっているわけではないのですが(基本的にそれぞれのエッセイは話題が独立しています)、ハッカーとは何か?を考える上では、非常に重要なキーワードと言えます。
最後に、そのほかに気になったところをまとめてみました。自分なりに意訳した部分もあるので、その点はご容赦を。
- ハッカーは規則に従わない。前提を疑う習慣をつけよ。常に自問自答せよ
- ハッカーは好奇心が強い
- ハッカーは想像力が豊か。口に出来ないようなこと、考えもできないようなことを頭の中で考えよ
- ハッカーは退屈なプロジェクトでは働かない。その代わり、絶対に中途半端な仕事はしない
- 富を得るには、人々が必要とすることをやる
- 特定のグループのユーザが必要としているものは何かを見つけることから始めよ。そしてそのグループには自分自身を含めて考えよ
- 小さな集団で働くことで自身の生産性が測れるようにし、新しい技術を開発することで梃子(テコ)を得よ
- センスは突然生まれるものではなく、悪いものを直し続けることで徐々に磨かれる
各章の原典(と日本語訳)まとめ
- 第1章 どうしてオタクはもてないか(2003年2月)
- 第2章 ハッカーと画家(2003年5月)
- 第3章 口にできないこと(2004年1月)
- 第4章 天邪鬼の価値(2004年4月)
- 第5章 もうひとつの未来への道(2001年9月)
- 第6章 富の創りかた(2004年5月)
- 第7章 格差を考える
- 第8章 スパムへの対策(2002年8月)
- 第9章 ものつくりのセンス(2002年2月)
- 第10章 プログラミング言語入門
- 第11章 百年の言語(2003年4月)
- 第12章 普通のやつらの上を行け(2001年4月、2003年4月改訂)
- 第13章 オタク野郎の復讐(2002年5月)
- 第14章 夢の言語(2001年5月)
- 第15章 デザインとリサーチ(2003年1月)
- 第16章 素晴らしきハッカー(2004年7月)